マリア

秘密

 アスファルトから照り返す熱で、蜃気楼ができそうな日だった。広大な敷地に建つ近代的な白い巨大な建物。それにふさわしい広大な庭には、何種類もの木々や花が植えられている。だが、人の姿はあまりなく、殺伐とした雰囲気が漂っていた。
【八王子医療センター】テレビで一度くらいは聞いたことがあったが、実際来たのは初めてだ。だが、マリアが生まれた福生からこの八王子はほど近く、一番大きな駅でもあったので、幼い頃母親に連れられて何度か来たことがある。しかし駅に降り立ったとき、そのあまりにも変わってしまった風景にかなり驚いた。昔の面影はほとんど無く、駅前のバスターミナルやビルは見覚えのないものばかりで、案内図を見ないとわからないほど変わってしまっていた。それに医療センター直通のバス乗り場が見つからず、結局は駅構内の交番で聞いてしまった。バスに乗ってからは、窓から見える風景に少しほっとする。街の中心部を離れ、国道から外れると、田舎の山道に出た。バスは木々の間を抜け、しばし外の暑さを忘れさせてくれる。道中には民家などはなく、このセンターへ行く為だけに造られた道のようだ。山頂に近づくと、木の合間から巨大な建物の一部が見えた。どれだけのお金を使ってこんなに凄い建物を建てたのだろう。敷地に入ってからもその設備や大きさにいちいち驚いた。建物の中に入ると、どこか大きな会社のロビーのような佇まいだが、車いすに乗る人や、点滴を持って歩いている姿を見て、ここが病院だとわかるぐらいだった。
 受付で入院病棟の場所を聞く。だが原田から聞いた徳二郎の病室にたどり着くまで、一〇分程かかった。
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