【十の瞳】



お風呂から出た。
 

ファニーペインは早速夕飯の支度に向い、僕は次に控えていたえどがぁさんを呼びに行った。
 

えどがぁさんは、誰もいない応接室で、ラジオをいじっていた。


「ラジオ、聴けるんですか?」


「ああ、コロ君か……。


このラジオ、古いし音も最低だが、奇跡的に時々音を拾うんだ……。


今も、何とかもっとはっきり聞こえるように、周波数を合わせているんだがね……」
 

砂嵐の音に紛れて、ニュースを読む平坦な声が途切れ途切れに聞こえてくる。


「ここの事……どこも言ってないんだ。


孤立の事はすぐにニュースになるって、期待していたんだけどね……」


「えどがぁさん、お風呂どうぞ」
 

僕は、彼の言葉を遮るように言った。


「シャワーよりも、ずっとさっぱりしますよ。


疲れてる時は、特に……」


「ごめんよ……君に気を遣わせたかったわけじゃないんだが……」
 


――彼もまた、プレッシャーと戦っているようだった。
 

そうだろう。
 


本物の殺人事件が起こり、更に事故で多少なりとも『紡ぎ車』の事情を心得ていた藤浦さんまで、僕等は失った。



今、頼れるのは彼だけだ、というような空気がある。



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