【十の瞳】
その他、藤浦さんの話によると、この館は別の土地から移築したものであるという事だった。
その際、建物のあちこちを大々的にリフォームしてるらしい。
客室にシャワーを付けたり、防音のために部屋の壁を厚くしたのもこの時だという。
「防音……?」
「ああ。マスターはその辺にとても神経質だったみたいでね……。
おかげで、各部屋は静かで快適だけど、不穏な物音を聞き取りづらく、犯人にとっては都合が良い、って事さ」
僕は、妙に納得していた。
館の中で何となく感じていた、圧迫感や閉塞感の正体が少し分かった気がした。
タキさんが、お盆に上品なグラスをいくつも載せて戻ってきた。
僕は、受け取ったコーヒーにミルクとガムシロップを入れ、シャリシャリとストローでかき混ぜて、一口すすった。
すっきりとした苦味が、脳を刺激する。
「問題は、この屋敷には空き部屋がたくさんあるという事だ……」
元々、ここには大勢の『紡ぎ車』のスタッフや、劇団員が宿泊するはずだった。
僕達が二階に部屋を割り当てられたように、彼等は一階に泊まるはずだったらしい。