【十の瞳】
ほっと、安心する。
そして、全員で屋敷に帰ろうと向き直った時だった。
藤浦さんが、ぬかるみに足を滑らせた。
「あっ……!」
そう聞こえただけだった。
視線を声のした方へ移すと、藤浦さんはもういなくなっていた。
思考が現状に追い付かなくて、数秒頭が空白になる。
我に返ったのは、ファニーペインが這いつくばって谷へ身を乗り出した時だった。
「藤浦さん……! 藤浦さん……!」
パニックを起こして叫びながら、今にも飛び降りそうな彼を、えどがぁさんが必死に止めようと、
「危ない」とか「やめるんだ」などと叫んでいる。
そんなに近くにいるのなら、直接手を出せばいいのにと思いながら、
僕はファニーペインの腕やら足やらを引っ張って、どうにかこちら側に引きずった。
(藤浦さんが……落ちた……)
谷は真っ暗で、何も見えない。
どどどどど……と、水の音がする。
下は、川なのかもしれなかった。
……助けに行こうにも、危険すぎた。
もう、生きていないかもしれない。
僕等は、屋敷に戻った。