リアル
常海歯科大学付属病院。
薫と隆の二人はその目の前に訪れていた。
「で、どうすんだよ?」
隆が薫の横顔に訊くと、薫は隆の目の前に手を出した。
薫の格好はいつもと少しだけ違う。
色合いはいつも通り落ち着いたものなのだが、質はいいものだ。
「何だよ」
隆はその行動の意味が分からずに首を傾げた。
後ろで縛った淡い茶色の髪が揺れる。
「保険証、ある?」
隆は薫の質問に疑問を抱きながらも、財布の中から保険証を出した。
「何処か痛いとこある?」
薫は隆の保険証を取りながら訊いた。
午前中の為か、敷地内の学生は少ない。
もう少ししたら、昼食を摂る為に姿を現すのだろう。
「何処かって?」
隆は大きな建物を眺めながら質問を返した。
この付属病院は歴史が長いわりに、校舎が綺麗だ。
いや、校舎だけでなく病院部分の建物も綺麗だ。
同じ敷地内に大学も病院もあることが珍しいのかどうか、薫には判断出来なかった。
風邪を引いたとしても、診察料金が高くつきそうだという理由で、どうしても付属病院は敬遠してしまう。
だが、知っている範囲では見たことがない。
「ここで歯以外に痛いところあっても仕方無いでしょ?」
薫は呆れたように返した。
この世界の何処に、歯医者に頭やお腹を診てもらう人間がいるというのだ。
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