リアル
「うん、虫歯は二本ですね。どちらも小さいから、今のうちに治療してしまいましょうか」
まだ若い歯科医師はゆったりとした口調で言った。
「この子、怖がりなんで一つずつ治療してもらっても構いませんか?」
薫はいつもより数段柔らかい声で訊いた。
少しずつ治療してもらうことで、ここに足を運ぶ回数を増やす作戦だ。
「ええ、いいですよ」
歯科医師はマスクの上からでも分かる程にこやかな笑顔で答えた。
昔と違い、柔らかい物腰の医師が多いように思う。
薫は病院内を見ながらそう思った。
幼い頃自分が通っていた歯医者は、怖がろうが何だろうが無理矢理治療を進めていた。
それも、大人も子供も関係なくだ。
今、都内の歯科医院の数はコンビニより多いとも言われている。
その中で勝ち抜いていくには、治療費で差をつけることが出来ない以上は、優しさやそういうことしかないのだろうか。
要は評判ということだが、歯の治療は余ほど腕が悪くない限り、素人に腕の良し悪しの判断は難しい。
なので、目に見えて分かるのは対応の良さになるということだろうか。
「では、左右あるので、右からやっていきましょうか」
医師は言いながら、近くに立つ衛生士らしき女性を呼んだ。
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