リアル
「麻酔しなくても大丈夫だとは思いますけど、どうされます? もしかしたら、染みるかもしれないですけど」
「あ、しといてもらっていいすか?」
隆は嘘ではなく歯医者が怖いらしく、少し顔を強張らせて言った。
「分かりました。じゃ、麻酔の準備を」
医師の言葉に衛生士の女性は軽い笑顔で頷き、背後にある表面麻酔を手にした。
医師はゼリー状のそれを隆の歯茎に塗っていく。
自分が歯科治療を受けたことは幾度となくあるが、こうして端から見るのは初めてだ。
「ちょっとちくっと、しますよ」
医師は注射器タイプの麻酔を隆の歯茎にいれていく。
硬い歯茎に針を刺されるのは流石に痛いのか、隆は眉をぴくりと動かした。
「もう痛くなくなりますよ」
医師は子供に話し掛けるかのような優しい口調で言う。
その通りに痛みがなくなったのか、隆の眉間の皺は消えた。
「はい、じゃあ起こしますから、口濯いで下さい」
その言葉と同時に診察台は起こされた。
.