リアル
隆は微妙な面持ちで診察台に腰を下ろした。
何度此処に足を運ぼうが植田美緒と接触を図るのは難しいだろう。
なら、無駄足なのではないだろうか。
診察台の脇に座る薫にちらりと視線を向けた。
薫は隆を心配する姉を演じながらも周りに気を巡らし美緒を探しているようだ。
そして、肝心の美緒は隆の治療のアシストをするらしくすぐ側にいる。
これは願ってもないチャンスなのだろうが、どうにも話し掛ける術はない。
警察でもない自分達が事件のことについて美緒に訊けるわけがないのだ。
隆は一度そのことを考えないようにした。
何より、苦手な歯科治療が始まろうとしているのだ。
歯科治療は隆にとって恐怖以外の何物でもない。
幼い頃から、歯を削る音とその独特の匂いがどうにも苦手なのだ。
それと、麻酔をしていても感じる振動も。
痛みがないだけましなのだろうが、それでも嫌なものは嫌なのだ。
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