リアル
二人の会話から察するに、隆は夕べリアルサイトの管理人である美緒と接触したらしい。
そしてどうやら、サイトに登録することを断られたのだろう。
「申し訳ありませんけど、男性の理想となると、中には卑猥なことを書き込む人も出てきそうで断っているんです」
美緒は眉を下げたまま言った。
「へえー……」
隆はさして興味がなさそうな返事をする。
「貴方は、どんな毎日を理想とされてたんですか?」
美緒は急に笑顔に変わった。
何だか、新手の宗教に勧誘するような笑みだ。
「別に。ただ、一流企業に就職してて、可愛い彼女がいたらいいなって」
隆の話が嘘なのは分かっているが、本当にそう思っているのではないかと思えるような芝居をしている。
「そうですか」
美緒はまた笑顔だ。
「……そのサイトには、そういったことを書き込むの?」
薫は隆に話を合わせながらも質問をした。
「あ、はい。そうなんです。理想とする毎日を送れない方に、日記だけでも理想の日々を書けたらと思って」
「美緒さんは、誰から見ても理想とする日々を送れてるわよね。素敵なお家に、素敵な彼もいて」
薫の言葉に、美緒は一瞬だけ悲しそうな顔をした。
いや、それは悲しそうな顔ではない。
だが、一瞬過ぎてどのような表情かまでは分からなかった。
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