リアル



裏口の戸を開けると在庫管理をしている吉崎が、よ、と手を上げた。


彼はこのスーパーの社員で、在庫管理を主な仕事としている。


三十代半ばなのだがまだ独身で、休憩中はいつも煙草をくわえているのが印象的だ。


常に煙草を手離せないその姿は生野と何処か被る。


だが生野は優男風の見た目をしていて、吉崎は反対にスポーツマンのように体格が良い。


「おはよう」


薫は伸びた髪を纏めながら答えた。


休憩室はこの先だ。


在庫管理は吉崎のお陰で丁寧に行き届き、通路の邪魔になるような置き方はされていない。


休憩室に着くまでに、一人のアルバイトの女の子と擦れ違った。


彼女は川原という名でフリーターだ。


真っ黒な髪を几帳面に纏め、化粧気は一切ない。


一番華やかな年頃だろうに、彼女はいつも素っ気ない格好をしている。


薫も格好のことは人のことを言えないが、何しろ華やかな年齢ではない。


四捨五入してぎりぎり三十。


それは、この子達くらいの年代から見れば立派なおばさんだ。


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