リアル


ひたすらレジを打ち続けていると、休憩までには腕が怠くなる。


帰ったら湿布を貼って寝よう。


薫はそう考えながら休憩室へと下がった。


閉店の十一時まではあと二時間。


これからの時間は大した混雑もなく終われるはずだ。


休憩室には先に川原がいて、何やら携帯電話を弄っていた。


友達とメールでもしているのだろうか。


薫は売り場から買ってきた缶コーヒーのプルトップを開けながら、川原の手元を見た。


かちかちかち、と物凄い速さで文字を打ち込んでいく川原の顔は心なしか嬉しそうに見えた。


友達ではなく彼氏なのだろうか、と思いながら川原の全身に目を向ける。


今の時代、出会いのチャンスは幾らでもある。


だから、川原のような子に恋人がいても可笑しくはない。


「……何ですか?」


川原の言葉に、薫はしまった、と思った。


休憩中は特にすることがないので、川原の様子を見すぎたのだ。


「ああ、メール打つの速いなと思って。私は全然駄目だからさ」


薫はわざとおどけたように言ってみせた。


「……メールじゃないです」


すると、川原はぼほりと返してきた。


「え?」


「メールじゃないです。ブログを書いてるんです」


川原は携帯電話を弄る手を止めずに言った。


ブログというのが、ネット上での日記を意味することは薫でも知っている。


「そうなんだ」


薫は頷きながら、こういう子はどういうブログを書くのだろうと一抹の興味を抱いた。





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