リアル




「……殺さなくて……よかった」


隆は薫と同じ言葉を繰り返した。


その声はあまりに小さくて、すぐに消えてしまった。


その言葉を紡ぎ出した唇は震えている。


安堵と後悔が胸の中で入り交じっているのだろう。


薫はその唇に、自分の唇をそっと重ねた。


涙が滴ったその唇は塩気を含んだ味がした。






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