リアル
「何だよ」
隆は訳が分からないといった様子のまま、薫に引き摺られるようにして歩いた。
「いいから」
薫が隆を連れていった場所は風呂場だった。
古いアパートの為、風呂とトイレは別だ。
浴槽には昼前に張った湯がある。
昼食を済ませたら風呂に入るつもりだったのだが、急な隆の訪問でそれは断念したのだ。
風呂場は少しだけ開いた蓋の隙間から立ち上る湯気のお陰で、暖まっている。
薫は蓋を全て取り、浴槽の前に隆を跪かせた。
そして後頭部を掴み、そのまま勢いよく湯面に押し付けた。
湯を張ってから時間は経っているので、熱いはずはなくむしろ温いくらいだろう。
「うわ……っ」
隆の言葉はそこで途切れ、ばしゃ、と湯に顔面を突っ込まれた。
それでも起き上がろうと、手を浴槽の縁にかけ、身体を必死に突っ張っている。
何とか顔を上げた隆の後頭部を、薫は再び押した。
そして今度は起き上がれないように、背中に膝を置き体重を乗せる。
すると、隆は必死に浴槽の縁を手で叩き、尚も起き上がろうとした。
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