リアル
「ご飯あるけど」
京華は生野の前に回り込み言った。
「着替えに帰ってきただけだ」
生野の発言に、京華は口を尖らせることもなく笑顔を見せた。
「大変だね、事件が起きると」
物分かりがいいのが、彼女の最大の良点だろう。
「そうだな」
生野はそれだけ言い、自室に入った。
捜査が進めば、着替えに帰ってくる暇さえなくなるだろう。
それでも京華は文句一つ言わなければ、無駄な連絡もしてこない。
彼女と二年も付き合いを続けていられるのはだからこそだ。
今までは連絡の催促やらを寄越したり、会えないと不満を漏らす女ばかりだった。
そんな女との付き合いはどれも半年と持たない。
「お母様のことは心配しないでね」
着替えを終えて部屋から出ると、笑顔の京華がいた。
「ああ、頼んだ」
生野がそう言って微笑むと、京華は少し照れたような素振りを見せた。
「いってらっしゃい。気を付けてね」
事件に向かう生野に京華が必ず掛ける言葉だ。
そこには無事に帰ってきてくれ、という願いが込められているのだろう。
生野の母もそうだった。
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