リアル



亡くなった父親も生野と同じく警察官だった。


生野との違いは父親は刑事ではなかったということだが、事件があったと出掛けていく父の背に、母はいつも京華と同じ言葉を掛けていた。


エリートにも関わらず、現場へと赴いた父親は、犯人に銃殺された。


それは勿論京華も知っている。


だからこその言葉なのだろう。


「ああ、事件が解決したら、真っ先に帰ってくるよ」


生野は微笑みながら嘘を吐いた。


事件が解決した時、自分が真っ先に向かうのはこの家ではない。


「美味しいご飯作って待ってる」


それに気付いていないらしい京華は満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ」


生野は短く言い、自宅を後にした。


ぱたん、と扉が閉まるなり京華の顔から笑顔は消えた。


振っていた手もゆっくりと動きを止める。


「……嘘つき」


小さな声で言う京華の顔は今にも泣き出しそうだった。





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