リアル
この間の。
薫はその言葉について思巡した。
ここ最近、この辺りで物騒な事件などあっただろうか。
夕方にパートに出向き、深夜に帰ってくる生活。
近所付き合いもないし、パート先も此処から自転車で四十分と、少し離れている。
基本的にテレビは見ないし、新聞は元より契約すらしていない。
例え事件が起きていても、知らなくとも当然だ。
薫はそう思い直し、また進んだ。
行き着いた先には、「keep out」と書かれた黄色いテープが張られている。
誰が教えずとも、日本国民は皆、これが立ち入り禁止を表すことを知っている。
薫も勿論その一人で、そこで足を止めた。
黄色いの向こうには、警官達が青いブルーシートを掲げ、中が見えないようにしている。
その周りに人はいない。
捜査員達はその向こうに集っているのだろう。
これは間違いなく、人が死んでいる。
薫はその様子を見ながら確信した。
野次馬の前列に立ち、中を見ようと試みるが勿論無理であり、それも知っている。
だが、見たい、という気持ちが強かった。
何が起きているのか知りたかったのだ。
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