リアル
京華は携帯電話の画面を見詰めて溜め息をついた。
新着メッセージも着信履歴もない。
今頃、恋人である生野は何処にいるのだろう。
「憂いを帯びた顔だね」
京華はその声に顔を上げた。
「蒔田さん」
そこには三十代にさしかかったくらいの男がいた。
蒔田裕児。
彼はフリーのイラストレーターで、京華が働くカフェの常連客だ。
そして、カフェ「ミルフ」の看板デザインも彼が手掛けたものなのだ。
コーヒーカップに擦り寄る、愛らしい白い仔猫の看板は京華のお気に入りだった。
「〆切に無事間に合ったから、コーヒーでも飲もうと思って」
蒔田は目を細めて笑った。
「いつものでいいですか?」
京華は携帯電話をエプロンのポケットに仕舞った。
今店長は買い出しに行っているので、店内の従業員は京華だけなのだ。
ミルフはさして広くなく、飲み物とケーキしかない店なので、京華一人でも十分だ。
「そうだね」
蒔田は微笑みながら頷いた。
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