リアル





「ああ、そうだ」


生野は答えながら煙草を灰皿に押し付けた。


煙草臭さが少しだけましになる。


薫は携帯電話を手に取り、「ブログ」と称された頁を読んだ。


彼氏と旅行した、友人とオールで遊んだ、ブランドのバッグを買った。


どれもこれも似たような内容ばかりで、名前の欄を見なければ同じ人が書いていると勘違いしてしまいそうだ。


「これ、全部嘘なのよね?」


薫は分かっていながらも、一応生野に訊いた。


俄には信じがたいのだ。


「嘘、というには違うんじゃないか? 全部、妄想なんだよ」


確かに、嘘という言葉よりそちらのほうがしっくりとくる。


こんなふうに日々を偽ることに何の意味があるのだろう。


薫にはそれが理解出来なかった。


自分だって現実を確りと受け入れているわけではない。


後悔だってしているし、違っていただろう未来に思いを馳せたりもする。


だが、こんなふうにそれを記したりはしない。


今ある現実を少しでも受け入れて、それでも生きていくしかないのが人生なのだ。


「おっと、そろそろ戻らないと」


生野は掛け時計に目をやると、やや大袈裟な口調で言った。


「じゃ、よろしくな」


生野の言葉に、薫は頷いた。








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