∮ファースト・ラブ∮
「そうだね……。
麻生は、そういうところあるもんなあ。
誰にも悟られず、陰でそうやって他人を助けるの。
あいつ、そういう素質あるんだよ。
だからだろう。
女子があいつの周りにいるのは……そう思うよ」
葛野先輩は目を伏せた。
なんだろう。
なんか……やっぱり麻生先輩には何かありそうだ。
葛野先輩の言い回しで、なんとなくそれがわかった。
「葛野先輩」
「なに?」
伏せた目をあけて、また、あたしと向き合った。
何を訊かれるのかを知っているみたいだ。
「香織(かおり)さんって、誰ですか?」
あたしがその人の名前を口に出した瞬間、びゅうっと大きくて強い風が吹いた。
まるで、その名前を風さえもが拒んでいるかのような、そんな感じだった。
名前を聞いた瞬間、葛野先輩の表情が強張るのを垣間見た。
そして…………ゆっくり息をはく。
「そっか…………手鞠ちゃん、
気づいちゃったんだね。
香織のこと」
葛野先輩の重い空気から察するに、やっぱり麻生先輩には何かあるみたいだ。
ごくり。
唾を飲み込んで、口の中がカラカラになるのを防いだ。