∮ファースト・ラブ∮
「井上 香織(いのうえ かおり)。
彼女は、3年1組のクラスにいる。
7組の速水 尚吾(はやみ しょうご)の彼女だ」
――あ、あの人だろうか。
香織さんといた長身な男の人。
「尚吾な、久遠とは友達だったんだ」
「だった?」
過去形の言葉に、あたしはひっかかりを覚えた。
「そ、だった。
でもって、香織の恋人。
これは現在進行形な」
葛野先輩はまたもや大きく息をはいて言葉を続ける。
とても言いにくい話のようだ。
「香織って、見た瞬間、なんていうかな、
ちょっと頼りない感じっていうか、儚い雰囲気なんだよ」
うん。
そんな感じがした。
守ってあげたくなるような、あたしとは違うタイプの人。
コクリとうなずけば、葛野先輩は、あたしを安心させるように笑って話を続ける。
「そんな雰囲気だからかな、久遠ってほら、ああ見えて結構お人よしっつーか、
優しいんだよ。
次第に手を貸すうち、久遠は香織を好きになったんだ。
そして、香織も久遠に惹かれていった」
麻生先輩と、あの人が――――。
ズキリ。
ふたりが笑いあっているところを想像したら胸が痛くなった。