シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
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七瀬紫茉に連れられて、私達は一本道を歩いていく。
行けども行けども冷ややかな漆黒色で覆われた道程は、まるで私達の辿る未来を暗示しているかのように思えて、心ざわめくままに。
私達の間には、会話がなかった。
各々俯きながら考え込んでいて、ただ重苦しい空気が漂うだけ。
そうして現われた、上に続く梯子(はしご)。
登って出たのは、ようやく外界だった。
私達が居たと思われる…漆黒の塔を、遙かに遠く望む…恐らく此の場所は、黄幡会の敷地外だろう。
緊急脱出のような抜け道だったのか?
七瀬紫茉の居る天井に向かって上れば景色は水平となり、そしてそこから上に上がれば地上?
ということは、地下を歩いていたというのか?
固定観念を崩す地形変化は、どうしても"約束の地(カナン)"を思い出してしまう。
此処は、あの土地に関係があるのだろうか。
冷たい風が吹きすさぶ。
周りに人の気配も感じられず、私達は暫しその場で足を止めた。
外界では――
とうに日が落ち、あたりは闇に包まれていた。
「…斜陽、か」
櫂様の弱弱しい言葉が聞こえる。
ご自分の境遇を、太宰治の小説になぞらえたのだろう。
燦燦と輝いていた太陽が急遽傾く…没落した貴族の運命を。
誰が傾くと思っていただろう。
櫂様の未来は盤石なはずだった。
私は認めない。
櫂様以外の人間に、傅(かしず)く気は毛頭無い。
私の命運は、櫂様と共にある。
私は――
櫂様をこのままにはさせない。
日陰になど、櫂様を置かせない。
「櫂様。日は必ず昇ります。
桜が昇らせてみせます。
全ては元通りになりますから!!!」
言い切った私に、櫂様は哀切な笑みを浮かべた。