シンデレラに玻璃の星冠をⅠ


「目覚めなんて最悪に決まってるだろ!!!」


煌の声で我に返る。


不機嫌極まりない顔つきの煌だけれど、あれだけ重そうなフライパンを脳天直撃して、不機嫌だけで終わるのはさすがだ。


煌はズボンのポケットから伊達眼鏡を取り出して、同じく櫂から手渡されたらしい紙を凝視しながら、出された伊達巻きに齧り付いた。


それなりに、テストの自覚はあるらしい。


どうしてこいつは、勉強モードに入ると眼鏡をかけるのかよく判らない。


元々煌の視力はかなりいい。


しかも、それいつ何処で買ったものなんだろう。


「これ? これ櫂から貰ったんだ。かけてると頭よくなる気して」


櫂は細かい作業をする時に、眼鏡をかけるということを最近偶然知った。


いつもの…人智を越える美貌に理知的な美しさが加われば、どんな相乗効果をもたらすのかなんて、ただの凡人には言い表すことは出来ないけれど、これ以上…幼馴染という理由だけであたしを追い回す女達を増やさないで欲しい。


あたしと櫂は12年来の幼馴染。


その強い絆は、永遠に続くものだと信じている。


――芹霞ちゃああん。


あの頃。


あたしと櫂との仲はきつく結びついていて、あたし達は互いを、自分の半身のように思っていた。


その絆は永遠。


あたしの中での"永遠"は、櫂と知り合う前から病的なまでの思い入れがあると知ったのは、つい最近。


それでも櫂とは永遠でいたい。

ずっとずっと一緒に居たい。


理屈抜きに、その思いは今でも変わらないけれど。


だからこそ、櫂が姿を変えた8年前からの…今に至る櫂の姿に、あたしの知らぬ櫂がいるのは正直面白くない。


いつか昔のように…全て暴いてやりたいとは思うけれど、不敵な『気高き獅子』に一介の庶民であるあたしなど、敵うわけない気もするのも事実。


何だか悔しい。

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