好きって言って!(短編)
ケータイのバイブの鈍い音で目が覚めた。

泣き腫らして厚ぼったくなった瞼を擦りながら時計を見ると、もうすぐ19時になろうとしてる。

あれから5時間以上眠ってたんだ…。

のそのそとバッグの中からケータイを取り出してディスプレイを確認すると、着信の相手は淳也だった。

迷った末に通話ボタンを押した。

「…はい」

「お前、今どこだよ!」

予想外の淳也の剣幕に、驚いてケータイを落としそうになる。

「どこって…、家だけど」

もう。
こんな日くらい、しっとり失恋気分に浸らせてくれてもいいのに。

「家だけど、じゃねーよ!
お前、俺ん家の鍵持って何やってんだ」

ハッとして上着のポケットに手を入れる。

チャリ。

金属音と冷たい感触に、記憶が蘇る。

そういえば今朝、淳也の家の戸締まりをしたのは私だ。

大学で返すつもりだったのに、あんなことがあったから、すっかり忘れてた。

「今すぐ家まで持って来いよ」

淳也はそう言い捨てると、乱暴に電話を切った。

自分で自分に呆れ果てる。

今日はもう淳也に会いたくなかったのに…。

だけど鍵を持ってるわけにもいかなくて、渋々家を出た。

電車に乗ること30分弱。

大学の裏手にある、割と新しいアパート。

階段を上がった、二階の突き当たりの部屋の前に、座り込んだ人影が見えた。

「遅ーぞ」

淳也は私の出した鍵を引ったくるようにして扉を開けると、部屋に入った。

私が部屋の外に立ち尽くしていると、淳也はすぐに扉を開けて私の腕を掴み、

「何ボーッと突っ立ってんだよ。
早く入れ」

部屋の中に引き入れた。
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