好きって言って!(短編)
早くその場から離れたいのに、足がもたついて、ちっとも前に進まない。

「ちょっと、菜々!」

追ってきた和泉に肩を掴まれた。

「吉成くんに何か言ってやんなよ!
さんざんヤることヤッといて、自分だけちゃっかり彼女作ってるなんて、調子良すぎだっつーの」

和泉はまるで自分のことのように、語尾を荒げて言う。

だけど私は首を横に振った。

「もういいの。
だって淳也が好きなのは、初めっからまりえちゃんだったんだもん」

自分に言い聞かせるように言う。

「それなのに、あんな関係でもいいから側にいようとした私がいけなかったんだ」

「菜々…」

「淳也がカノジョを満足させるような男になっちゃったんだもん。
もう約束の期間は終わっちゃったんだよ」

涙がポロポロと頬を伝う。

あー。
私って淳也のこと、こんなに好きだったんだんだ。

こんなことになるなら、せめてちゃんと淳也に好きって伝えとけば良かった。

カラダだけの関係が続くはずないって、分かってたのに。

「吉成くんだけが男じゃないぞー。
元気出せー」

頭をガシガシ撫でてくれる和泉の手が暖かくて、嬉しくて、私はわんわん泣いてしまった。



「一人で帰れる?」

心配してくれた和泉に、できる限りの笑顔を見せて、私はそのまま家に帰ることにした。

午後の講義も受けなかった私は、何のために大学に行ったんだろう。

失恋しに行ったなんて、本当に間抜け。

あまりに早い帰宅に、お母さんもびっくりしてた。

メイクも服もそのまま、ベッドに倒れ込む。

さんざん泣いて疲れ果てちゃったみたい。

さっきからバッグの中でケータイが鳴ってるな、なんて思いながら、私は眠りに落ちていった。
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