好きって言って!(短編)
「菜々、お前今日なんで大学サボったんだよ。
電話も全然出ないし」

10回はかけたぞ、とぶつぶつ言いながら淳也はキッチンでお湯を沸かし始める。

「コーヒー飲むだろ?」

「いらない。
部屋にも、もう上がらない」

私がそう言うと、淳也は驚いた顔をしてキッチンからこっちを見た。

「どうした?」

「だって…。
二人きりで会ってたら、彼女に悪いよ」

「彼女…?何の話?」

淳也が眉を潜める。

ごまかすなんて往生際が悪い。

こっちは淳也と友達との会話を、しっかり聞いてたんだから。

「英文科の西園まりえちゃん。
付き合うことになったんでしょ?」

私の声、震えてないかな。

「は?何言ってんの?
つーか誰?西園まりえ」

淳也の強引なしらばっくれ方に、何だか腹が立ってきた。

「今日の午後、教室で一緒にいたじゃん」

「今日って…。
お前、大学来てたのかよ」

淳也は呆れたように言う。

「…確かに、午前中あの教室で忘れ物をしたって子と話しはしたけど」

「嘘。
仲良さそうだったくせに」

「んなわけあるか。
俺、あの子のことよく知らないし。
あ、でも…」

淳也は少し考えるようにした後、付け足して言った。

「その忘れ物ってのが、小学生が遠足に持って行くような駄菓子ばっかりでさ。
懐かしいなって会話で盛り上がったけど」

何それ…。

「待って。
だってそもそも、淳也ってまりえちゃんのこと好きなんでしょ?」

「は?
何でそーなんの?
つーか俺、あの子の名前知ったの今だし」

淳也は私の言葉に目を白黒させている。
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