好きって言って!(短編)
「何これー!」

カチカチに固まった不自然な笑顔を向けて映っているのは、確かに私だった。

でも、そういえば、身に覚えがないでもない。

半年くらい前、街頭でスナップを撮らせて欲しいって声をかけられたっけ。

女性のカメラマンだったし、洋服の写真を撮るだけならいいかってOKしたけど、まさか、雑誌に載ってるなんて思いもしなかった。

そういえば雑誌の名前も、今になってみれば聞き覚えがあるような、ないような…。

「だから…。
この雑誌は菜々が載ってるって噂で聞いたから買いに走ったの!」

淳也は耳まで真っ赤になってる。

それってつまり。

「淳也って、私のこと…」

「悪かったな!
お前のこと好きで」

嘘。

信じらんない。

「―――じゃあ、今日教室で、『ずっと惚れてたやつと、やっと両思いになれたんだから』って言ってたのは…」

淳也は私から目を逸らすと、照れ臭そうに鼻の頭を擦る。

「昨日言ったじゃん。
俺が寝たふりしてたときに、『好きだよ』って」

今度は私が真っ赤になる番だ。

寝たふりって、何それ!

あの告白、聞いてたの?

「お前、枕元でペットボトル開けるんだもん。目ぇ覚めるって。
しかも、俺のことやっと好きって言ったと思ったら、次の瞬間には寝てるし…」

確かに、あの後の記憶はない。
エッチの後で疲れてたから…って、淳也のせいじゃん!

「どういうつもりで言ったのか問い詰めようにも、お前は朝になっても起きないし、一限の講義は必修だからサボるわけにいかないし…」

淳也がぼやくのを聞きながら、私はその場にへなへなと座り込んでしまった。
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