繋いだ手
求人
中華鍋から炎が湧き出て、

手早く油通しされた食材が、


あっという間に調理され、

香辛料で味を整え、
テーブルに運ばれる。


広さ、20坪程の、運命のステージの幕開けから3年。


嬉しいことに、

客足は途絶えることがなかった。



スタッフには、本当に恵まれている。



昔からの仲間や、気心知れた友人、



定時制の彼らは、


賄いで鍋を振れるくらいまで成長した。



この頃には、


「毎度!」

と声をかけ



「いつものネ!」

と、答える常連さんが、



かなりの割合を絞めていた。



だんだん日が短くなる、秋口から、


学生の卒業時期前には、


スタッフ増員や、入れ代わりがある。



年が明けて間もない、今日。

新たなスタッフが加わる。

彼は、17歳の高校生。



大抵の面接は、あたしが担当してるけど、


今回は、

タイミングが合わなくて、

他のスタッフが面接をした。



何でも、新人君は、


この店の常連さんで、


偉く店の味に惚れ込み、



一緒に料理をしたいと
前回の求人募集から、

電話をしてきてくれてるらしい。



前回は、既に空きが埋まった後の応募で間に合わず、


それでもめげずに、

次に求人がのる今回のソレまで、3ヵ月待って、



今日に至る。



それを聞いて、今回の人材は!

と、スタッフの期待も高まった中での採用だった。



(アレ?確か、面接の帰り際、


軽く会釈してすれ違った、

あの時の、チャラそうな、
今時の大学生みたいなコだよなぁ?)


一瞬、あの日の後ろ姿をあたしは、思い出していた。


彼が入る、
今日のあたしのシフトは


早番だった。



自分の立ち上げた場所に、

それほど、共感してくれて

何度も電話をくれ、
面接までこぎつけた


そのコ。


今時、

そんな熱い奴がいるなんて…



テンションが上がる。
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