胸の音‐大好きな人へ‐
夏休み最終日。
補習のせいで遊べず不完全燃焼だった俺は、満面の笑みでアイスを差し入れてくれた春佳に訊(き)く。
「毎日そんなにニコニコして、何がそんなに楽しいの?」
「だって、暗い顔してても時間は過ぎてくから」
春佳は諭(さと)すようにつぶやいた。
夏休みが終わって、2学期が始まった。
春佳と帰った夏の夕暮れが遠ざかるのと同じ速さで、春佳への恋心は加速の一途をたどる。
同じ教室の中にいるのに、絡む友達が違うっていうだけで、春佳とは全く関わることがなくなった。
アドレス交換したりもしてないから、放課後どこかに誘いたくても無理で。
それでも常に目で追ってて、春佳の行動や話し声を全身で知ろうとしてた。
友達の恋の悩みを親身に聞いてる春佳。
漢字苦手なクセに、漢検受けると言い出したチャレンジ精神。
夏休み中、猫っ毛が気になるって言ってたな。
二学期に入ってからも、髪型をしょうちゅう変えては鏡に向かってため息をついてる。
可愛いな。可愛い。