胸の音‐大好きな人へ‐
春佳のつらそうな表情を見てたら抱きしめたくなったけど、今は話を聞いてあげたいから我慢して唇を引き結ぶ。
「今はもう、中学時代のことは思い出さないようにしてたんだけど、バイト先に中学の時同じクラスだったあの人達が来て、全部思い出して……。
それだけじゃなくて、ワゴンのバイトも他のバイトも、顔で選ばれるって身にしみたんだよ……」
この頃春佳は、高校を卒業して以来フリーターをしていることを、親に注意されていたらしい。
いつまでもこうして気楽なバイト生活をしているわけにはいかないって分かっていたし、大学に行く気がないなら、将来を視野に入れて定職につかなきゃならない。
でも、就職活動をしてみたものの、イマイチ自分に自信が持てず、面接官相手にオドオドした応答をしてしまい、苦労して履歴書を書いたのがむなしくなるほどアッサリ落とされてしまう、ということが続いた。
「バイトじゃなくて正社員として仕事するなら簡単には辞められないだろうから、多少キツくても楽しんで働けるような職場が良くて、ネイルサロンの面接に行ったの。
そしたら、『あなたみたいな地味な子を店員にはできない。店のイメージに関わるから、華のあるスタッフでかためたい』って言われちゃった。
悔しいけど、その人の言うことにも納得できたの。
女の人を綺麗にするはずの店員が私みたいに地味で化粧映えしない女だったら、お客さんも不安になるだろうし……」
「そんなこと!」
春佳はまたしても俺の否定語に言葉を被せる。
「この先もきっと、顔が原因で周りからそういう扱い受けるに決まってる。
そうやって毎回傷ついたって、顔が変わるわけじゃないもん。
ならいっそ、そんな体験とは無縁の可愛い顔にした方が早いと思ったの。
…………圭?」
もらい泣きとかじゃない。
俺の頬にも涙が伝っていた。