しゃぼん玉
独身時代の翔子には大きな夢があった。
幼い頃から舞台女優を目指しており、地元では有名な劇団に入団することもできた。
それからは、日々稽古に邁進(まいしん)していた。
だが、そんな充実した日常の中で、付き合っていた恋人との間に子供が出来てしまった。
それがメイだ。
翔子は迷わず中絶すつもりだった。
来年の公演に向け練習したかったし、
なにより翔子は、劇団のトップ女優とも言われる程、容姿や声だけではなく、演技までを高く評価されていたのだ。
当時は、翔子を知らない者はいないというくらいに、彼女は舞台女優として優良な実績をたくさん残していた。
別れるのを覚悟して恋人に中絶を申し出たのだが、恋人はそれを反対した。
『翔子と、ずっと一緒にいたい』
翔子も彼を愛していたので、輝かしい栄光を捨て、結婚し、メイを出産した。
その頃、劇団仲間から、翔子が出るはずだった大きな舞台公演に、違う女優が翔子の代わりとして出演したと聞かされた………。
メイを出産したら、それなりにうまくやっていこうと思っていたのに、やっぱり夢に未練があったのだと気づいた。
ベビーベッドで眠るメイを見下ろし、
『この子のせいで、私の人生が狂ったんだ……。
今頃はきっと、私があの舞台を飾っていたのに…………』