しゃぼん玉


ミズキやアイリと別れたナナセは、自分の通う音羽大学へ向かっていた。

今日の授業は2時限目からなのだが、1時限目から授業を取っているというミズキ達につられて、自分も早く学校へ来てしまった。


同じ授業を取っている友達はまだ来ていないようなので、一人、学内のロビーで紅茶でも飲んで時間をつぶそうとしていると、ナナセは聞き覚えのある男性の声に呼びとめられた。

「東藤君……! 探してたんだよ、君のこと」

「松本先生」

松本義弘。

この男性は音羽大学の講師である。

ナナセも松本の授業を取っていた。

教育学部に在籍しているナナセは、松本が受け持つ「教育社会学」という授業を取っていて、松本とは、授業後に話しかけられ時々会話をする程度の関係だったが、こうして授業以外の時間に話しかけられたのは初めてだった。

「話って、何でしょう?」

「ああ……。君に、頼みがあるんだが……」

普段、堂々とした雰囲気で威厳のある松本が、今日は珍しく歯切れの悪い物の言い方をしているのが、引っかかる。

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