しゃぼん玉


マサヤはアイリを探していた。

“あいつ、昨日飯作ってから帰ったんじゃなかったのかよ!”

マサヤは昨夜、アイリの作った夕食を食べ、すぐ眠ってしまった。

まだ、東の空も真っ暗な朝5時にふと目が覚め、寝起きの習慣となっているケータイチェックをしようとしていた。

だが、いつもある場所に愛用中の黒いケータイはなく、ケータイから外された充電器の先だけが無造作にベッドの下に垂れていて、普段のようにケータイを見ることはできなかった。


宇野家の合鍵を持っているのはアイリだけなので、彼女が何らかの理由でマサヤの部屋から彼のケータイを持ち去ったのは明白。

アイリは、以前マサヤが誤って口にしてしまったメイの存在を訝(いぶか)しんでいた。

マサヤの浮気の証拠を探すため、アイリが彼のケータイを盗み見るであろうことは、マサヤも予想できていた。

だから、あらかじめ浮気の証拠は全て消しておいた。

女からのメールも、着信履歴も、電話帳も、何もかも。

まっさらなケータイを見れば、アイリも変な疑いを持つのをやめるだろう。

マサヤはそう思っていたのだが、甘かったようだ。

“アイリ、もしかして星崎の画像を見たのか?

だから俺の電話に出ないのか?

まさか、あんな昔の画像まで見るなんてな……”

アイリはいつも、マサヤの電話には必ず出ていたし、出れない時には、折り返しマサヤに電話をかけ直すマメさもあった。

けれど、今回のアイリはマサヤを避けているかのように、電話に出ることはなかった。

“何でだよ、アイリ……”

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