黒の本と白の本
 その言葉に、黒の本の女は再び驚きに目を見開きました。
「我が本の持ち主の願いは、姉のあなたを助ける事、残り二つの願いと自身の命と引き換えての物だった」
 そこで白の本から出てきた老人は、ゆっくりと白の本の女の事を語りだしました。
 姉が飢えに喘ぎながら放浪を続けている間に、白の本の女は一人の男性の元へ嫁ぎ、三人の子供と五人の孫を持って幸せに暮らしていました。
 夫に先立たれ、子供達夫婦も孫も自分の下から去ってしまった後、姉の様子を聞いた白の本の女は、白の本から出てきた老人を呼び出しました。
「願い事は何か?」と、白の本から出てきた老人が現れて尋ねます。
 白の本の女は「どうか、姉を助けてください」と自分の本に願います。
 しかし白の本から出てきた老人は、首を横に振って受け入れようとはしませんでした。
「今残っている願い事全てを使っても、あの方を助ける事はできかねる」
 と……それでも、何か方法はないかと白の本から出てきた老人に尋ねます。
 そうすると、白の本から出てきた老人はとてもゆっくりと口を開きました。
「では、あなたがあの者に百回殺されてください。そうすれば、あの者は楽になる事ができましょう」
 その言葉を聞いて、白の本の女は姿を変えて何度も何度も黒の本の女に殺されに向かいました。
 最初は、少年。次は老人……と、黒の本の女に気づかれないように。
 黒の本の女は、白の本の女とは知らず、何度も何度もやってくる人間を殺しました。
 そして、白の本の女が自分の幼い頃の姿をとって百回目の死を遂げた時、黒の本の女の胸からことりと心臓のはねる音が聞こえてきました。
< 8 / 9 >

この作品をシェア

pagetop