△~triangle~
彼の手からバイオリンと弓を受け取ると、少し考える様にそれを見つめ、それからそっとバイオリンを構えた。
ゆっくりと弓を動かせば、そこからは軽やかな音楽が生まれる。
それは今日、コンクールで弾く事の出来なかったあの曲。
……母の大好きだった曲。
来る日も来る日も必死に練習をした、思い出の曲だ。
私の指は私の腕は私の体はこの曲を覚えている。
繰り返し、繰り返し何度も奏でたその曲を、今までの全ての想いを籠めて奏で続けた。
夕暮れの公園の中、二人っきりの演奏会は続き……そして終わる。