ケンカ+理解×大好き=友情

夜の繁華街。

ネオンで満たされた空気。

大人の世界。


「また来てくださいねっ」

ドレス姿のミサキは、語尾にハートマークを付けたように甘い声で、背広姿の中年男性におじぎをしている。


私とミサキは、数時間前まであっちゃんの働くコンビニにいたが、今はこうして市内にあるキャバクラの店内にいた。


ミサキが見つけたこのバイト。

バイトというより、キャバクラの一日体験という、バイトより気楽なモノ。

今日までそんなこと全く知らなかったけど、ほとんどのキャバクラには、一日体験制度があるらしい。

ドレスや靴も店にある新しい物を貸してくれるし、ヘアセットやメイクもしてもらえる。

完璧、別人だ……。鏡に映った自分を見て目がチカチカした。

ミサキは普段から念入りメイクをしてるからここのドレスも良く似合ってるけど、私はすっぴんの日が多いからこういうのはどうも慣れない。

正に《馬子にも衣装》ってやつ?


一日体験というのは、私たち嬢に店の雰囲気やお客さんとの接し方を知ってもらうために、一日だけ仕事を体験させてくれる、文字通りの制度だ。

体験とはいえお客さんの話し相手をしたりお酒を作ったりしなきゃならないから、時給もキッチリ日払いでもらえるという、考え方によってはおいしい稼ぎ方。


面接も堅苦しくない、5分程度の簡単なものだった。

この店に問い合わせの電話をしたのが夕方くらいだったのに、夜にはこうして働くことができている。


現役女子大生が金欠になった時に、気楽な気分でキャバ嬢一日体験をしにくるということも、この世界では普通のことらしい。

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