リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
『君島課長に注意されて、それが、あいつら気に入らなかったらしいです。課長がいなくなったら『男好きのてめえの女房を、どうすることもできねえふにゃちんヤロウが偉そうに』『ホントよねえ。種なし子なしの爺のくせに』って、そんなことを言って、課長のことを笑っていたって。渡辺たちは会社に入ったばかりだったから、まだその意味がよく判らなかったみたいですけど、木村は、あいつらがなにを笑っているのか判るから、あいつらが許せなかったみたいです。俺らも、それ聞いた日から、あいつらは見切ったんです。一番、あいつらのことを気にかけてくれている人のこと、そんなふうに言って笑うロクでもない連中、相手なんかするもんかって』

訥々と聞かされたあの言葉が耳に蘇ってくるだけで、明子の目に、激しい怒りの涙が込み上げてくる。
目頭が、じわりと熱くなってくる。
自分ですらこんな強い怒りを覚えることを、牧野が許すはずがないと明子は思った。
許せるはずがない。
あんなに怒った牧野は見たことがないと、野木は言っていた。
当たり前だ。
君島に、きっと何度も、牧野は救われてきたに違いない。
牧野にとって君島は、きっと、他人には簡単には見せられないその心の傷を、隠すことなく晒せる人なのだ。
そんな大切な人の傷を抉り、あざ笑うようなことをしておきながら、それでもまだ、牧野の気持ちをどうにかできると思っている美咲が、明子には許せなかった。
牧野が兄のように慕うその人を、陰で笑っていることを知られても、牧野の気持ちがまだ手にはいると思えるその神経が、明子には理解できない。
そのことを責めれば、自分が言った言葉ではないと美咲は言うのだろう。
けれど、一緒になって笑っていたなら同罪だ。
牧野は絶対に赦さない。


怒りに震える明子の心に浮かんだ、美咲や美咲の取り巻きたちの顔に、明子はその胸中で布告した。


(喧嘩上等。受けてやるわよ)
(牧野の子どもを身ごもった?)
(ふざけんじゃないわよ)
(あんなピンヒールの靴を履いて。夜遊びし放題で。それで妊娠云々って。バカじゃないの)


ふんと、鼻を鳴らして、明子は詰めていた息を吐き出すと、改めて答えを待っている亜矢子に言葉を返した。
< 1,043 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop