リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「そんな事実は、まったくありません」
明子は静かに、でもきっぱりと断言した。
「全部、ウソ。そう思っていいんですね?」
真剣な目で確認するような亜矢子の問いかけに、明子は肩を竦めた。
「井上さんが倒れたかどうかは知らないし、妊娠しているかどうかも、私は知らないけど。牧野さんが、彼女に結婚を約束したなんて事実はないし、もし仮に、井上さんが妊娠していたとしても、その子の父親は牧野さんじゃないわ。それだけは、断言できます」
明子をまっすぐに見つめている亜矢子の視線を受けて立つように、明子もまっすぐに亜矢子を見つめて、そんな事実はないと言い放った。
ややあって、亜矢子が大きく息を吐いた。
「よかった。あんまりにもヒドいウワサもあって、牧野さんのことをアレコレと言っている人もいて。ぜったい、そんな人じゃないって、言い返したかったんですけど、それをウソだと断言できる根拠がなくて」
どうしたものかと悩んでたんです。
そう告げた亜矢子の顔は、晴れ晴れとした明るい表情だった。
「私、牧野さんにフラれました。今年の春。きっぱりと」
聞いてますか?
口調を変えて、きれいにふわりと笑みを浮かべた顔で、亜矢子はそんなことを明子に告げた。
「今、知りました」
「そうですか。そのときに言われたんです。どうしても、諦められない人がいるんですって。その人を諦めてしまったら、自分はきっと抜け殻みたいな人間になってしまいますからって。それが誰なのかは、聞きませんでした。誤魔化さないでちゃんと答えてくれたから、それで十分でした。あれ、小杉さんのことだったんですね」
「はい。私です」
胸を張って、明子は答えた。
この人だけには顔を上げて、真っ直ぐな気持ちで向き合って答えなければいけないと、明子はそう思った。
少なくとも、亜矢子は生半可な気持ちで牧野を想っていたのではないと、それが明子にも判ったから。
ならば、私がちゃんと止めを刺して諦めさせてあげないと、この人も次に進めない。
そう、明子は思った。
「牧野さん、抜け殻にみたいな人にならないで、すんだんですね」
ふふふと笑う亜矢子に、明子は気負っていた毒気が抜けたように、肩の力がするりと抜けていった。
「うふふ。脱皮したニューバージョンの牧野が、誕生するかもしれませんけどね」
そのときは、どこかに牧野の形をした抜け殻が転がっているかも。
そう続けられた言葉に、亜矢子も楽しそうに笑い出した。
「すいませんでした。仕事中にお引き留めしてしまって」
笑いながら、カウンターに戻り始めた亜矢子が、明子にそう詫びた。
明子は静かに、でもきっぱりと断言した。
「全部、ウソ。そう思っていいんですね?」
真剣な目で確認するような亜矢子の問いかけに、明子は肩を竦めた。
「井上さんが倒れたかどうかは知らないし、妊娠しているかどうかも、私は知らないけど。牧野さんが、彼女に結婚を約束したなんて事実はないし、もし仮に、井上さんが妊娠していたとしても、その子の父親は牧野さんじゃないわ。それだけは、断言できます」
明子をまっすぐに見つめている亜矢子の視線を受けて立つように、明子もまっすぐに亜矢子を見つめて、そんな事実はないと言い放った。
ややあって、亜矢子が大きく息を吐いた。
「よかった。あんまりにもヒドいウワサもあって、牧野さんのことをアレコレと言っている人もいて。ぜったい、そんな人じゃないって、言い返したかったんですけど、それをウソだと断言できる根拠がなくて」
どうしたものかと悩んでたんです。
そう告げた亜矢子の顔は、晴れ晴れとした明るい表情だった。
「私、牧野さんにフラれました。今年の春。きっぱりと」
聞いてますか?
口調を変えて、きれいにふわりと笑みを浮かべた顔で、亜矢子はそんなことを明子に告げた。
「今、知りました」
「そうですか。そのときに言われたんです。どうしても、諦められない人がいるんですって。その人を諦めてしまったら、自分はきっと抜け殻みたいな人間になってしまいますからって。それが誰なのかは、聞きませんでした。誤魔化さないでちゃんと答えてくれたから、それで十分でした。あれ、小杉さんのことだったんですね」
「はい。私です」
胸を張って、明子は答えた。
この人だけには顔を上げて、真っ直ぐな気持ちで向き合って答えなければいけないと、明子はそう思った。
少なくとも、亜矢子は生半可な気持ちで牧野を想っていたのではないと、それが明子にも判ったから。
ならば、私がちゃんと止めを刺して諦めさせてあげないと、この人も次に進めない。
そう、明子は思った。
「牧野さん、抜け殻にみたいな人にならないで、すんだんですね」
ふふふと笑う亜矢子に、明子は気負っていた毒気が抜けたように、肩の力がするりと抜けていった。
「うふふ。脱皮したニューバージョンの牧野が、誕生するかもしれませんけどね」
そのときは、どこかに牧野の形をした抜け殻が転がっているかも。
そう続けられた言葉に、亜矢子も楽しそうに笑い出した。
「すいませんでした。仕事中にお引き留めしてしまって」
笑いながら、カウンターに戻り始めた亜矢子が、明子にそう詫びた。