リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
ただいま戻りましたと小林に挨拶をして、明子は席に着いた。
部屋に入る際、ちらりと目を向けた幸恵の席は空席だった。
妙にその机の上が片付いているように感じながら眺めたのだが、席に着くと当時に、野木から名を呼ばれた。

「原田。体調不良で早退だそうです」

呆れ果てている野木の声に、明子も「そうですか、判りました」と答えて、肩を落とした。


(なんなんだかなあ。あの子も)
(やっぱり、ムリかあ)
(とりあえず、作業の進捗だけは、確認しておこうかな)
(なんだか、朝、やっていたもんね)


そんなことを考えている間も投げ掛けられてくる、小林からのなにか言いたげな視線に、明子はなんですかと尋ねるように首を傾げると、小林は会議室を指で指して、ちょっといいかと立ち上がった。

「なんでしょ? 仕事の話ですか?」
「いや、仕事の話じゃ、ないんだけどな」

僕は怒っていますという顔で、むっすりと黙り込んだままディスプレイを見つめている木村の顔や、少しばかり疲れたような表情で明子を上目遣いで見ている川田の顔から、なんとなく話しの内容は察しがついたので、明子のほうから思い切って切り出した。

「なんか、変なウワサが流れているみたいですね」
「なんだよ。もう、聞いてんのかよ」

なら、いいや、ここでと、くだけた口調でそう言う小林は、またどさりと座り直して、明子にも、座れよと言うように顎で席を指し示した。
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