リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「誰から聞いた?」
「受付の北原さんから、社内でこんなウワサが流れていますが、どうなんですかと」

明子が告げたその名前が余りにも意外だったのか、一瞬、虚を突かれたような顔をした小林は、すぐに破顔して笑い出した。

「北原さんな。はっきり物言うからなあ。あいつ」

その声の感じからは、亜矢子に対する悪感情は感じられなかった。
むしろ、好意的なものさえ感じられた。
牧野の件に関して言えば、彼女は最大のライバルだったのかもしれないと、明子はそんなことを考えて、少しばかり、冷や汗が浮かぶ思いをした。


(あの美人さんとの一騎打ちだったら……)
(戦う前に戦意喪失だったわ。きっと)
(敵にしないで、よかった)


牧野さん、色男過ぎですよと、心に浮かんだ男前に、明子は胸中でため息をついた。

「今度、飲みに行きましょうと、約束してきましたよ」
「強いぞ、あいつも」
「みたいですね。むふふ。朝まで飲んできますよ」

やっぱり主任もモンスターだと言って、隣でぽかんと口を開けている木村に、明子は失礼ねと笑う。

「で、なにを聞いた?」
「まあ、いろいろと。いや、教えてもらって助かりました。今も休憩所でもくだらないことを言っている子たちがいたんで、先制パンチ繰り出してきました。ウワサのことを知らなかったら、問答無用で鉄拳制裁してましたね」
「だから、殿中だから堪えろって。鉄拳は」

苦笑を浮かべつつもそう言って混ぜっ返す小林に、明子は「だって、あんまりにもひどいんですもん」と、訥々した口調で北原から聞いた話と休憩所でのことを語り聞かせた。
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