リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「なんか、さらに進化してるな、ウワサが」

マウスを操作していた手を止めて、明子の話に聞き入っていた川田は、その途中から呆れ返った顔になり、顔をふるふると振っていた。
そして、ひとしきり、明子の話を聞くと、ため息とともにそんな言葉を吐き出した。

「俺が午前中に聞いた話は、小杉主任とお嬢様が大喧嘩してって、そんなかんじのものだったんだけどなあ。そんなに物騒なウワサになっちまってたんだ」
「まあ、ウチの部自体が、この件では蚊帳の外に出されてるっぽい雰囲気あるからな」
「確かにな。なんか大変そうだねえって言うわりに、なにがと聞くと、いやいやって、へんに誤魔化すしなあ」

川田の言葉に村田が応じるかたちで、二人はそんなとこを話し出した。
自分と同じ課にいるというだけで、こんな面倒事に巻き込んでしまったと、明子は少しばかり恐縮する思いで、こめかみあたりを引掻いていると、やや気鬱な雰囲気を孕んだ重い声がした。

「妊娠くらいなら、勘違いでしたと笑い話にできるかもしれないが、自殺未遂はマズいな。マジで常務の耳に入ったら、やばいぞ」

一人、ぽつんとしていた岡本が、無言のまま聞き入っていた明子の言葉に、顔を顰めて小さく舌を打ち、主のいない美咲たちの席を見据えながらそんなことを呟いた。

「そうですね。ちょっと……、それは度が過ぎると思ったんで、上にあげると脅かしてはきたんですが」
「それが抑止力になって、それ以上、悪いほうにいかなきゃいいが。それでなくても所在不明で、ピリピリしてるんだからな」

今の若いのはよく判らんと、岡本はため息を吐いた。


(所在不明?)
(誰が?)
(井上さん?)


聞こえてきたその言葉に、明子は改めて、美咲たちの所在を、岡本に問いかけた。

「判らん」

岡本が吐き出す息にのせて、短く一言、そう答える。
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