リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「もしかしたら、だけどな。ネットの書き込みかもしれない」
「書き込み? ああ。あれかあ」

その言葉に、なにか思い当たるものがあるらしく、木村は納得したように小さく頷いていた。
しかし、明子を初めとする先輩上司たちは、なんのことだと眉を潜めるばかりで、怪訝な眼差しを渡辺に向けた。
その視線に、渡辺はあるSNSの名前を皆に告げた。

「そこに……、ウチの社員が集まってるコミュニティがあるんです。管理人に申請して、認可された人しか参加できないようにはなっていますけど、けっこう、若い社員は参加していると聞いたことあります」
「そんなものがあるの? いつから……」
「はい。管理人は、多分ですが、江藤じゃないかと。だから、できたのもここ一年、二年のことだと思います。最初のうちは、あいつらしか参加していなかったはずなんですけど、こういうのがあるって、あいつら自分たちで言い広めたらしくて。そこに、いろいろ、上司や先輩のこととかを書き込んでいるみたいです。申請自体は簡単らしいんで」

淡々と申請登録の仕組みや、そのコミュニティの内容について語り続ける渡辺の言葉を、明子は唖然とした面持ちで聞いていた。


(なんだかなあ)
(私が会社入ったころって、まだここまで、ネットも普及していなかったからなあ)
(それにしても、今の子たちって、ある意味、すごすぎるかもだわ)


そんなことまで、匿名でインターネットなどという世界で愚痴っているなら、なんで社内で声に出して言ってこないかなあと、明子にとっては呆れてしまうしかないようなことまで、そこでやりとりされているらしいというその現実に、少しばかりの頭痛を覚えた。
小林や岡本あたりになると、その感覚はもっと理解しがたいのだろう。
岡本は腕を組んで一点を見据え、小林は額に手を当て考え込んでいた。

「渡辺は、それに入っているのか?」
「自分はそのSNS自体、登録していないんで」
「木村は?」
「入ってません。あいつらに関わりたくないし」

木村にしては珍しく、吐き捨てるようにそう言ってから、思い出したように「岡島、入ってなかったっけ?」と、渡辺に問いかけた。
その言葉に、瞬き一回分の躊躇を見せてから、渡辺は大きく頷いた。
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