リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「離婚したらしいぞ」
「え?」

その言葉に、誰よりも驚いた声をあげたのは明子だった。
そして、自分でさえ初めて聞いたその事実が、すでに自分の知らないところでこうやって広まり、ひそひそと囁かれ、こんなふうに面白がられているという事実に、情けなさと悔しさがごちゃ混ぜになっていく。

「そんなこと。誰が」

調べてきたのだと問いかける明子の目に、上原は頭を掻きながら経緯を告げた。

「んーとな。多分。情報源は井上課長」
「井上課長って」

もう、勘弁して欲しいと、明子は頭を抱えた。
妹からの嫌がらせにだって辟易しているのに、この上、兄からまでそんな嫌がらせをされなければならないのかと、明子は喚き散らしたくなった。
そんな明子に、上原は「まあ、ちょっと聞いてくれよ」と、明子を宥めながら話しを続けた。

「そうらしい。なんせ、俺のいない間のことなんで、らしいとしか俺は言えないんだけどな。課長から、申し訳ないと伝えてきてくれと頼まれた」

じつは、それが今日ここを訪ねてきた最重要案件だったのかと、明子はまたため息を吐き、空いているイスを上原に勧めた。
長い話を背後に立たれて話されても、聞いているこっちも疲れると、ひとまず、座ってくださいよと上原に言う。

「自分が行くべきなんだろうけど、最近、ここは敷居がかなり高くて跨ぎづらいらしい」

勧められたイスに座りながら、上原はケタケタと笑い転げた。

「そりゃ、今ここに来たらボロボロにノックフウトですよ。牧野課長も戻ってますからね」

こてんぱんにやっつけられちゃいますよと、木村はやや憮然とした口調でそう切り捨てた。
まあ、そう、怒りなさんな、課長にも頭痛の種なんだからと、誰と言わないが誰のことかは判るその言葉に、まう、そうでしょうけどと、川田が机の向こうで苦笑した。
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