リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「牧野さん」
「ん?」
「どこまで、知ってたんですか?」
「なにを?」
「離婚のこととか、結婚相手のこととか」
「俺もっ 初めて知ったっ」

バカっ そこを疑うなよっ
なんのことかはすぐに理解したらしい牧野は、やや声を荒げてそう言う。
その大きな声に、明子をピクリと大きく肩を震わせて、牧野をちらりと横目で見た。

「だってー。井上課長、あそこに出入りできるように橋渡ししたのって、牧野さんですよね?」
「あー。それはな。確かに手を貸したよ」

明子の肩がピクリと跳ね上がったことに気づいた牧野は、一呼吸してから、声のボリュームを下げて、普通の声で話すよう努めてくれたようだった。

「今でも、連絡とか、取り合ってるんですよね?」
「だからさ、年始の挨拶だのは今でもしてるよ、そりゃ。でも、わざわざ聞かねえよ、そんな男の近状なんか。なんで俺が、そんな男のことをわざわざ聞かなきゃならないんだよ」

知りたかねえやと吐き捨てる牧野に、明子はそれでもまだ疑わしげな目を向けた。

「なあ。頼むからさ。信じろよ」
「だって」
「知ってたらっ ボンボンから話がきたときに断ってらっ そんな仕事やらせねえって」

一瞬の沈黙が車内に流れた。
明子はこれでもかと目を見開き牧野を見つめ、牧野はしくじったと言う顔で髪を掻き毟っていた。

「失言。忘れろ」
「聞いたことを、忘れられる訳ないじゃないですかっ」

今。なんて言いました。牧野さんっ
目をキリキリと釣り上げて、地団駄を踏むようにして足をバタバタさせる明子に、うるせえなと牧野は更に顔を顰めた。
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