リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「牧野さん。山登りなんて、するんですか?」
信じられないんですけどねえと、少しだけ胡散臭いものを見るような胡乱な目を向けると、牧野は返事の代わりとでもいうように、小さく鼻を鳴らした。
「まだ、三年くらいだけどな」
明子を促して歩きながらの牧野のその言葉に、今度は明子が「へえっ」と、声をあげた。
「冬の高尾もいいぞ。人が少なくて、静かでな。ここんとん、春夏秋は人だらけで疲れてな」
その言葉に、ニュースで見た秋の紅葉シーズンを迎えた高尾山の映像を思い出した明子は「でしようね」と、こくこくと頷いた。
「確かに。紅葉の時期なんて、ニュースでの映像とか見ると、うんざりしますよね」
「高尾あたりの山だと、雪山を歩く訓練するのに、ちょうどいいんだ」
本当に牧野の趣味が登山なのだと知って、明子は少し驚きながら牧野を眺めた。
(土曜日曜と、続けてちゃんと休めることなんて、滅多にない人なのに)
(それでも行っちゃうくらい、ホントに好きなんだ、山が)
牧野の意外なその一面に、明子は内心驚いていた。
「なんか、休みの日でも、仕事をしてる印象しかないんですけどねえ、牧野さんは」
「俺だって、休みは休む」
たまにはな。
そう続いた牧野らしい妙な言い回しの言葉に、明子は思わず吹き出した。
「それはそうでしょうけど」
「来年の夏こそは、穂高に行きてえなあ」
「穂高ですか。いいですね」
「なあ。いいよなあ。休めるかなあ」
「うーん。どうでしょうねえ。松山さんのところ、ちょうど来年の夏あたりが、最後の修羅場じゃありませんか?」
「あー。あれかあ」
明子の言葉で、松山が抱えている一年がかりの大掛かりなプロジェクトを思い出した牧野は、呻くようにそう言って、やっぱり無理かあと、天を仰いだ。
信じられないんですけどねえと、少しだけ胡散臭いものを見るような胡乱な目を向けると、牧野は返事の代わりとでもいうように、小さく鼻を鳴らした。
「まだ、三年くらいだけどな」
明子を促して歩きながらの牧野のその言葉に、今度は明子が「へえっ」と、声をあげた。
「冬の高尾もいいぞ。人が少なくて、静かでな。ここんとん、春夏秋は人だらけで疲れてな」
その言葉に、ニュースで見た秋の紅葉シーズンを迎えた高尾山の映像を思い出した明子は「でしようね」と、こくこくと頷いた。
「確かに。紅葉の時期なんて、ニュースでの映像とか見ると、うんざりしますよね」
「高尾あたりの山だと、雪山を歩く訓練するのに、ちょうどいいんだ」
本当に牧野の趣味が登山なのだと知って、明子は少し驚きながら牧野を眺めた。
(土曜日曜と、続けてちゃんと休めることなんて、滅多にない人なのに)
(それでも行っちゃうくらい、ホントに好きなんだ、山が)
牧野の意外なその一面に、明子は内心驚いていた。
「なんか、休みの日でも、仕事をしてる印象しかないんですけどねえ、牧野さんは」
「俺だって、休みは休む」
たまにはな。
そう続いた牧野らしい妙な言い回しの言葉に、明子は思わず吹き出した。
「それはそうでしょうけど」
「来年の夏こそは、穂高に行きてえなあ」
「穂高ですか。いいですね」
「なあ。いいよなあ。休めるかなあ」
「うーん。どうでしょうねえ。松山さんのところ、ちょうど来年の夏あたりが、最後の修羅場じゃありませんか?」
「あー。あれかあ」
明子の言葉で、松山が抱えている一年がかりの大掛かりなプロジェクトを思い出した牧野は、呻くようにそう言って、やっぱり無理かあと、天を仰いだ。