リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「どこで、線を引きゃいいのか、判らねえな」
「は?」
「お嬢様みたいな、ああいう勘違い系もいれたら、数えきれねえし」
「あのですね」

どれだけ色男ですか、牧野さん。
頭を抱えて呻きたい気分を堪えて、明子は小さくため息を吐いた。
モテる人だと言うことは、出会ったころから知っている。
今さらそれに打ちのめされても、仕方がないと割り切ってはいるけれど、こぼれるため息は止まりそうになかった。

「ちゃんと考えて、答えを返した相手は、会社では北原くらいだな」

そう続いた牧野の言葉に「そうなんですか?」と明子は首を傾げた。

「なんか、いろんな人が玉砕したような話を聞いてますけど」
「いろんな人? そんなん知らねえよ、俺は。真面目にちゃんと答えを返してやったのは、北原だけだよ」

明子の言葉に「なんだ、それ?」と怪訝な面持で訝しがる牧野を見て、明子はやれやれと息を吐いた。
聞かされていた数々のウワサは、本当にただのウワサだったらしい。
ふられたと本人が言ったのか、周りが勝手にそう触れまわったのかは判らないけれど、少なくとも、ふられたとウワサされている女性社員たちのほとんどが、じつは牧野から相手にもされていなかったということだけは、その表情から判った。
同時に、だからこそ、亜矢子のことは、牧野も真剣に考えたのだということも明子には判った。


(もし、異動の話を断って牧野さんから逃げ出していたら……)
(今、牧野さんの隣にいたのは彼女だったのかも)
(小林さんも彼女には、いい印象を持ってるみたいだったもの)
(そうなりそうなら、ぜったい、後押ししたわよね)
(やっぱり、一番の強敵だったわね)


そんな二人を思い浮かべた明子は、ふと思いついたことを牧野に尋ねてみた。

「惜しいことした思います?」
「あー。ないと言ったら、、嘘だな」

正直に答える牧野に、そうですよねえと明子までも頷いてしまう。

「フッておきながらなんだけど、もったいねえことをしちまってるよなと、思った」
「ですよね。私も思いましたもん。牧野さん、こんな美人さんをもったいないてすよーって」
「しょうがねえだろ。こっちの子豚さんが、俺はいいんだからさ」

そんなこと言いながら、明子の頬を抓んだ牧野に、明子はひどいひどいと抗議した。

「また、子豚って。明日、小林さんに言いつけてやるっ」
「なんでダメなんだよ。子豚。可愛いだろう?」
「なんで、こんな女心の判らない人が、モテるんですかねっ 謎ですっ」

プンプンと怒る声に、牧野は真面目な声で答えた。
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