リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
病院まであとわずかというところで、明子はあることを牧野に告げようかどうか迷いつつ、その横顔を盗み見た。



今朝。
今日の帰りに牧野と赤木の見舞いに行くという話を、小林に告げたときのことだった。
その話しを聞いた小林に、ちょいと顔を貸せと言われ、なんだろうと訝しがりながら共に会議室に入った。

『なあ。牧野からガキのころの話、聞いたか?』

探るような目で明子を見つめて、外に漏れぬよう潜めた声でそう尋ねてきた小林に、明子はこくりと一つ頷いた。
小林は、そうかと頷いて、しばし考え込むような表情を見せてから切り出した。

『あのな。どうやら、母親って言う女が、入院しているらしいんだ。同じ病院に』
『え?』

とっさに、その言葉を理解できずに、明子は何度も瞬きを繰り返して小林を見た。

『詳しいことは、俺も聞いてないんだけどな。今、その女と一緒に暮らしている男が、そう知らせてきたらしい。あまり容態がよくないらしくてな、できたら、一度でいいから顔を見せてやってくれとみたいなこと、あいつに言ってきたらしくてな』
『そんな、、いまさら、そんなこと』
『うん。あいつも、そう言ってた。いまさら会ったところでって。俺も会いたくないものを、無理して会うことないと思うから、それをとやかく言う気はないんだ』
『はあ』
『今でこそ、あんなふうに笑っているけどな。あんなふうになれるまで、どれだけの時間がかかったか。それ思ったら、会ってやれなんていう気にもなれねえし。お前もその件は、下手に突っつくな』
『はい』
『ただな。どこかでばったり、会っちまうかもしれないからさ。なんせ、引きのいい牧野だからな。とりあえず、気に留めておいてくれ。いきなり、そいつと出くわしちまったときのあいつがな。少し心配でな』

やっと、小林に呼ばれた意味を理解して、明子は判りましたと頷いた。
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