リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「寝ててくださいよ。そんな気ぃ使われたら、顔も見に来れないじゃないですか」
「お忙しいのに」
「ホントに。目が回りそうなくらい、働いてますよ」

わははと笑う牧野に、赤木の頬にも、かすかに笑みが浮かんだ。

「今日は、久しぶりに定時であがれたんで、ちょっと、顔を見にきましたよ」
「赤木さん。こんにちは。もう、びっくりしちゃいましたよー」

顔を見に行ったらいないんですもん。どひゃーでしたよ。
明子は努めて明るい声で、病の床にある赤木にそう声をかけた。
もともと、痩せていたその体は、さらに細くなったような気がする。
顔色も、決して、よくなかった。
普段もそれほど大きな声ではないが、今日は一段と小さな声だった。
傍らにある大きな機械が、倒れた祖父を思いださせて、明子の顔は歪みそうになったが、それを堪えて明子は笑った。

「小杉さんまで。すいませんね。こんなとこまで、わざわざ」

いつもの覇気はなく、静かに語る赤木に、牧野課長の車に乗ってきただけなんで、私は全然楽ですよと明子は軽く言い、こんなことなんでもないですと笑って見せた。

「うふふ。週に一回くらいは、赤木さんの声を聞かないと、なんか調子がでないんで。来ちゃいましたよ。木村も電話がないと寂しいって、言ってますよ」
「いつも、迷惑だったでしょう」

先週は電話ばかりしていたしと、赤木はますます申し訳なさそうな顔をした。

「これ、木村からです」

明子は神社の名前が入った小さな袋を、赤木に差し出した。

「早く元気になって、また電話くださいって、言ってました」
「小杉さんをではなく、木村さんをと、赤木さんに指名してもらうのが、目標なんだそうですよ。元気になったら、電話してやってください」

明子と牧野のその言葉に、赤木は目を細くした。
明子から手渡されたお守りを宝物のように、かすかに震える両手に優しく包んで、瞠目した。
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