リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
愚痴る言葉とは裏腹に、優しげな眼差しで牧野を見つめている亮一の目が、するりと明子に向けられた。
少しだけ好奇心混じりの笑顔で明子を見つめる亮一に、明子は会釈をしたり、回りを見回したりを繰り返した。
牧野さん、ちょっと、どうにかしてくださいよと、明子は胸中でそう訴えるが、牧野は素知らぬ顔で、家のことなどを尋ねているだけだった。
ややあって、亮一が根負けしたとでも言いたげな苦笑を浮かべて、牧野を見た。

「あのさ」
「ん?」
「そちらの方を、紹介してよ。お兄ちゃん」

お兄ちゃんを強調する亮一に、牧野はうるせえと照れくさそうな顔をしながら、得意げに胸を張って自慢するような声で、亮一の願いに応えてみせた。

「おう。彼女だ。以上。紹介終わり」

あっさりと、それいけしゃあしゃあと言う口調でそういう牧野に、明子はこれでもかと目を見開き瞬かせ、それから慌てて亮一に名乗った。

「小杉明子です。牧野課長…ったいっ」

明子の言葉を遮るように、牧野はその頬をむぎゅりと摘み上げた。

「痛いですよっ もうっ 乱暴者っ 暴力反対っ」
「うるせっ なにが牧野課長だ。こんなときまで、会社みたいに呼んでんじゃねえやっ」
「会社の上司と部下ですもん。間違ってませんもん。だいたい、なんですか、今の紹介の仕方。はしょるにも程がありますよ」
「うるせっ」
「うるさいのは牧野さんの声ですよ。だいたい、牧野さんがちゃんと紹介してくれないのがいけないんですからね。問答無用で、人を引っ張ってきたくせに、いざとなったら照れくさくなっちゃったんでしょ。もう、変なところで小心者なんだから。俺様牧野様はどこいったんですか?」
「なんだとぉ」
「なんだでもかんだでも、図星ですよね。じつは、あんがい、蚤の心臓だってことはバレバレなんですから、怒っても無駄ですよ」

もう、ほっぺた千切れちゃいそうでしたよ。
牧野さんのバカバカと言う明子に、千切れるわけねえだろっと、牧野は言い返した。
子どものケンカのようなそのやりとりを、面白そうに眺めながら聞いていた亮一は、やがて笑い出した。
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