リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「孝平のこと、ちゃんと判ってるなあ」
「牧野さんとは、同期入社なんです。だから、知り合ってからはもう、十年以上になりますから」

明子の言葉に、亮一はなるほどと頷いた。

「昨日今日の付き合いならともかく、十年も見ていれば、あいつの猫の皮の下の素顔は、ばれますね。そうかあ。じゃあ、孝平の良いとこも悪いとこも判ってるんですねえ」

良かった。あいつの顔にコロリとだまされて、あとからがっかりする女の人が多くて。
肩をわざとらしく竦める亮一に、明子もそうですねえと笑う。

「お顔だけなら、それなりに、いい男なんでしょうけど。なんせ、口は悪いし俺様だし食い意地はってるし」

あれこれ並べる明子に、亮一は仰け反るようにして、笑いだした。

「安心しました。孝平の残念なところも、ちゃんと見ていてくれている人で」

ひとしきり笑った亮一は、静かな頬笑みを浮かべた。

「あの……。見舞いって、ホントですか?」

静かに笑ったまま、やや声を落として、心配気な声色でそんなことを明子に問いかけてきた。
明子は首を傾げながらも、それを肯定するように頷いてみせた。

「ええ。お客様が入院されていて。いろいろお世話になっている方なんで、ちょっと顔を見てこようって」
「そうですか。なら、いいんですけど」

ようやく安心できたというような表情になった亮一に、明子は首をかしげた。


(牧野さん)
(なにか大変な病気を、隠していたことでもあったのかしら)
(インフルエンザくらいじゃ、こんな心配しないわよね?)


明子の怪訝な表情に気づいた亮一は、頭を掻きながら言い訳めいたことを喋りだした。
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