リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「悪かったな。妙なことに巻き込んじまって」
車が走り出してほどなく、疲れた顔で助手席のシートに深々と身を沈めている牧野が、外の景色を眺めたまま、運転席の明子にそう言った。
車に乗り込む前、明子は運転の交代を牧野に申し出た。
『そんなぼんやり顔で運転されても、怖いです。私が運転します』
鍵を渡してくださいと、運転席のドアの前に立ちふさがり手を指し出す明子に、牧野はやや考え込んでから、頼むと一言添えて、素直に明子に鍵を渡した。
牧野のその態度に、自分の精神状態がまだ普通の状態ではないと自分で判断できるくらいには、牧野も復活しているらしいと、明子は安堵した。
「妙なことなんて、言わないでください。私、言いましたよね。隠さないでくださいねって」
一緒のときでよかった。牧野さんが辛い時、傍に居られた。
それは紛れもない本心だと牧野に伝わるようにと、明子は伸ばして左手を静かに牧野の右肩に置いた。
牧野は一瞬、びくりと体を震わせて、ややあってから「そうだな」と小さな声で答えた。
「二階のカフェって、どこですか?」
やや重苦しさのある車内の雰囲気を変えようと明子が選んだ話題は、亮一が最後に牧野に聞かせた言葉についてだった。
「ん? ああ、花屋の上、カフェになってるんだ。今年の春先にオープンしたんだ。その前は雑貨屋だった」
黙り込んだまま外の景色を眺めていた牧野は、明子の問いかけに、ようやくその目を明子に向けて、なにかを吹っ切るように喋り出した。
平素に比べれば、やや精彩さに欠ける沈んだ声だが、言葉はしっかりしたものだった。
「サンドイッチ専門っていうか、いろんな国のサンドイッチが食べられるんだ」
「牧野さん、もしかして、全部食べました?」
「バカ。いくら俺でも、まだ完全制覇はしてねえよ」
「まだって……」
「今年中には完全制覇してやる」
「もう。なんでそんなに食べて、お腹出ないんですかっ」
世の中不公平ですっ
頬を膨らませて抗議する明子に、牧野は牧野らしい得意顔で答えた。
車が走り出してほどなく、疲れた顔で助手席のシートに深々と身を沈めている牧野が、外の景色を眺めたまま、運転席の明子にそう言った。
車に乗り込む前、明子は運転の交代を牧野に申し出た。
『そんなぼんやり顔で運転されても、怖いです。私が運転します』
鍵を渡してくださいと、運転席のドアの前に立ちふさがり手を指し出す明子に、牧野はやや考え込んでから、頼むと一言添えて、素直に明子に鍵を渡した。
牧野のその態度に、自分の精神状態がまだ普通の状態ではないと自分で判断できるくらいには、牧野も復活しているらしいと、明子は安堵した。
「妙なことなんて、言わないでください。私、言いましたよね。隠さないでくださいねって」
一緒のときでよかった。牧野さんが辛い時、傍に居られた。
それは紛れもない本心だと牧野に伝わるようにと、明子は伸ばして左手を静かに牧野の右肩に置いた。
牧野は一瞬、びくりと体を震わせて、ややあってから「そうだな」と小さな声で答えた。
「二階のカフェって、どこですか?」
やや重苦しさのある車内の雰囲気を変えようと明子が選んだ話題は、亮一が最後に牧野に聞かせた言葉についてだった。
「ん? ああ、花屋の上、カフェになってるんだ。今年の春先にオープンしたんだ。その前は雑貨屋だった」
黙り込んだまま外の景色を眺めていた牧野は、明子の問いかけに、ようやくその目を明子に向けて、なにかを吹っ切るように喋り出した。
平素に比べれば、やや精彩さに欠ける沈んだ声だが、言葉はしっかりしたものだった。
「サンドイッチ専門っていうか、いろんな国のサンドイッチが食べられるんだ」
「牧野さん、もしかして、全部食べました?」
「バカ。いくら俺でも、まだ完全制覇はしてねえよ」
「まだって……」
「今年中には完全制覇してやる」
「もう。なんでそんなに食べて、お腹出ないんですかっ」
世の中不公平ですっ
頬を膨らませて抗議する明子に、牧野は牧野らしい得意顔で答えた。